Electric Sheep

徒然なる日々の記録

舞台「ベター・ハーフ」の感想 2017年7月15日(土)ソワレ


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久々の下北沢・本多劇場でした。

駅の改装などでいろいろとごちゃついた感じがありましたが、街中に出てみると、割と変化なく、にぎやかな感じ。個人的にはああいうちょっとゆるっとした感じが好きです。かしこまっていないので。

本多劇場は久々でしたが、やっぱり演劇好きにはあそこは紀伊国屋ホールと並んで、落ち着くというか、芝居を見に来たなあ、、という気分が高まる場所と思います。スズナリとかもあるので、またいろいろ見に行きたい気分です。

とりあえず昨日は鴻上尚史さん作・演出の「ベター・ハーフ」を見てきました。初演とメンバーが変わって今回は松井玲奈さんが入っての4人芝居です。ほかは片桐仁さん、中村中さん、風間俊介さんです。

鴻上尚史さんはもちろん第三舞台などでも、いろいろな作品を描きますが、今回はまああの人らしい恋愛モードな作品です。ただし、問題定義というかその中に「トランスジェンダー」という要素が入ってきます。そのうえで心の変化を映す出す数年間という4人の歩みを追っていく作品です。ある意味、ライトでもあります。トランスジェンダーは一つの要素に過ぎず、その人物のいろいろな是非を考える作品とはいいがたいからです。

さて、東京公演は明日までですが、そのあと名古屋なども公演があります。細かい感想は、たたんで書こうと思います。

前にも書いていますが、あくまで四人の恋愛模様を描く作品です。まあ、ある意味ありそうな出会いから始まった恋愛がどう動くかを数年間追い続けることになります。

筋書きはHPにもありますが、最初はネットで知り合った男女がお互いに嘘をついて、身代わりを立てて、直接会う機会を作ります。ただ、その嘘から誤解が広がり、その修復をしていくうちに、嘘をついた一人が実はトランスジェンダーであったことから、ほかの三人のそれぞれの恋愛観や、仕事・夢の思いと重なって日々が過ぎていく、、、

この作品の良さは、心に必要以上に入り込む描写に重きをおかないところ。恋愛だからそういうこともあるよねっていう肯定から始まっている部分がスタートです。知らぬ間に始まる気持ちはいっぱいあるだろうし、逆に心に残った忘れられない気持ちもある。そういう恋愛に対する心の動きをすべて肯定して描く作品なので、見る人によっては、何しているみたいな感覚を持つ流れかもしれませんが、そこの肯定感が鴻上さんの作品らしいなあと思いました。

中村中さん演じる汀はもちろん彼女自身の状況も含めて、この役を案じるわけですが、劇中で歌う歌詞にその感情というか、いろいろな気持ちがじわっと入っていて、すごいなあと。公演のたびにあれだけ気持ちが入り込んでいたら、しんどいだろうなあ、、とか思いながら。ただ劇中のそのライト感との対比がうまく作り出せていました。歌はいずれも孤独感をにじませる歌が多くて、その隙間をどう埋めて生きていくか?恋愛対象がどういう存在になっていくか?特に風間さん演じる諏訪との恋愛と別れにその部分がにじみ出ていたと思います。

諏訪の役に関しては、今の人にありがちな恋愛観としてはまっとうかなと。なんというか仕事が忙しいとかそれが中心っていう姿を自分にも外にも見せ続けることで、何かに向き合う姿勢をどこか避けるというか、そらす感覚を持ち続ける男性は、比較的リアルだなと思います。劇中での状況、つまり最初は松井さんが演じる平澤と付き合うが、彼女が実は風俗でバイトをしてお金を稼ぐ状況に嫌悪感を感じて別れる。そのあと肉体的な手術を受けた汀に関係を持つことを懇願されて、そのまま付き合うが、最終的には傷ついた平澤を守ってあげるために汀を捨てることになる、、、途中、恋愛に対する諏訪の感覚を語る場面が出てきますがそういう理屈云々抜きにしても、それもまた恋愛における心の動きの肯定なんだと思います。何をしてもいいということではないですが、それもまた恋愛なんだと言うことでしょうか。傷つけることも傷つけられることもすべて。

風間さんは心を閉ざしたというかフィルターが掛かった感じを上手く見せる役者さんですね。演じることにかけては、もちろんうまいからこそいろいろな場所で活躍されていると思いますが、この諏訪の役柄は、仕事という建前を使いつつ、心をどことなく隠すキャラ(愛してると汀にかんたんには言わないなど)を嫌な立場にならずに演じていたと思います。過剰にデフォルメしない鴻上さんの演出に合わせる上手さなんだろうなと思いました。

個人的には松井玲奈さんに注目していました。「新・幕末純情伝」での演技を結構高く評価しています。彼女の動きのしなやかさ、全身で感情を表現していた沖田総司ははまり役でした。今回はどうかな、等身大でもあるし、もちろんデリヘル嬢という状況自体は特殊でも、たぶん普通の女の子の普通の恋愛だと思います。そういう役どころでどう見せるかな?と思いました。彼女の持っているかわいい部分はそのままだったなあと。すごく不思議でクールな表情を持っているけど、でも笑った時の喜びみたいなものがふわっと広がる感じ、アイドルとして過ごしてきた時間が作るものでしょうかね。惜しいのは「声」なんですよね、、、もちろん特性なので仕方ないのですが、、もう少し発声が変わると、声が伸びると思います。まだ少し高いキーでしゃべろうとする感じがせりふ回しに少し出ているかなと。十分魅力的な女優さんなので、次のチェーホフの「櫻の園」も楽しみです。

片桐さんはまあ、ああいう役をやらせたらさすがです。コメディリリーフとしても、また恋をしたい中年という感じも全く外さず楽しませてくれる。いい役者さんです、本当に。自分の位置がきちんとわかる方って、特に芝居の中では重要だなと改めて実感しました。また、片桐さん演じる沖村の受け入れられない愛情ってのも、またそうだよねえ、、という感じ。自殺しようとする場面でも、まあそれはフェイクですが、その瞬間でさえも汀に受け入れてもらえない気持ちもまた、恋愛の一つの結果だというのも違和感がなかった。

心に立ち入らない演出、あえて出来事の起こった後でせりふの中から気持ちをにじませる作風というか、そういう作品いろいろあってもいいのかなと。変化していくプロセスに踏み込む作品ではなく、こういう作り方も楽しいなあと思いながら見ることができた二時間だったと思います。

トランスジェンダーという要素はこの作品の恋愛の形の一つに過ぎないという描き方は個人的には非常に良いと思っています。例えば父が恋愛に反対しているとか、借金があるとか、そういう隠しておきたいとか、恋愛の障害の日常に組み込まれる要素の一つになるということがポイントなのかなと。今はそういう時代になったし、そういう多様性を含めて恋愛観が形成されていくというメッセージだよねと。結婚が、、とかいう話も出てきていましたが、それはすでに生活家族という問題であって、先に進んだ部分。逆に言えばそういうところに自然と進んでいく社会でもあってほしいという部分もあるかなと思い返していました。

 

久々の鴻上ワールドでした。