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徒然なる日々の記録

三谷幸喜「不信~彼女が嘘をつく理由」所感


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不信 ~彼女が嘘をつく理由 | PARCO STAGE

先週の土曜日、3月11日のソワレ公演を見てきました。

池袋芸術劇場のシアターイーストです。

今は野田さんの「足跡姫」もプレイハウスで続いていて、さらに三谷さんの作品なので、東京芸術劇場は芝居好きには嬉しい悲鳴かなと。

これから観劇の所感をかんたんにまとめておこうと思います。ネタバレになる可能性もあるので、未見の方はお気をつけください。

今回はフロア中央に横長のステージが組まれています。客席はそのステージを挟み込むように設定されています。役者は両サイドの客席扉を出入りの場所にしています。箱も大きくはないので、どの席も比較的見やすいスタイルかなと思います。自分は割りと端寄りでしたが、普通に見ることができました。

あらすじはかんたんにまとめると、、、

ある家に一組の夫婦(段田安則、優香)が引っ越してくる。庭付きの家に憧れて、ほうぼう調べて購入した様子。隣人にはやはり一組の夫婦(栗原英雄戸田恵子)が長年住んでいる。近隣の自治会の責任者も行っており、その家に挨拶に行くところから話は始まる。

まずきっかけは、段田安則、優香の夫妻が相手の家を訪ねたときに、臭いに耐えられないというところから、不協和音が始まっていく。そして近所付き合いしていく間に、戸田恵子の奇行に対する怒りがエスカレートしていき、、、という流れで前半、休憩をはさみ後半と見せていく。

前半は個人的には見ていて、イライラというか不快な感じがものすごく伝わてくる作りだった。特に優香の見せる演技はその不快さを見事に生み出すもの。隣の夫婦の様子に興味津々で、でも自分は傍観者のふりをする、夫に責任転嫁するなどなど、ずるさが全面に出るところを、優香という役者さんの可愛らしさなどでうまくバランスを取っている感じ。これは上手いキャスティングだなと感心。旦那さん役の段田安則さんも、夢の遊眠社時代から変わらずの上手さ。感情の起伏をうまく収めて、瞬間的に対応する演技はさすがのもの。奥さんの無茶振りに対するリアクションはさすが。こういう演技でのコミカルさと後半のシリアスな空気での緊張感が漂う演技での落差が段田さんらしい。

この夫婦に対して、まずは栗原さん、非常に良かった。妻である戸田恵子さんに対して、夫はどうしたいと思っているか?みたいな部分がものすごく伝わってきます。結果として、後半にどうなるか?にもつながる演出だったし、栗原さんは台詞回しや所作の部分で落ち着いた感じが非常によく出ていました。

そして戸田恵子さん、相変わらずの上手さで、危ういバランスの上に成り立っている奥さんを見事に演じていました。今回の役は難しいバランスだと思いますが、戸田さんはコミカルさと冷たさがうまく同居する方なので、役どころもぴったりな感じ。普通ならおかしなことをしている人なのに、本人は普通というかその狂った部分を含めて正常だよねって感じさせるところがすごい。

ストーリーは本当に前半は個人的にはきっついなあっていう感想が残りながら見ていました。それはもちろん三谷さんの上手さでもあるんですが、人の心の卑しさみたいな部分を見せつつ、隣近所同士のトラブルをじわじわ見せていく過程がなんとも言えず。特に戸田恵子さんのクレプトマニアをめぐるいざこざを中心にそれぞれの夫婦のスタンスが浮き彫りになると、一層、優香さんの無邪気さが悪い意味で際立つという感じ。

しかし、すでにこの前半で少しずつ二組の夫婦の関係性の逆転が見え隠れすることになります。

特に栗原さんの「警察に絶対に言わないでください」という話を段田さんたちが破るあたりから、最初は被害者立場的な描写だった部分から少しずつ移行していく流れは流石だなと。

後半に入ってこの逆転は気がつくと明確になっていき、相手の家族に対して介入しているのはどっちだ?という状況が崩れていきます。特にうまいなあと思うのは、それでも一方の夫婦の言い分は、常に相手が悪いというスタンスを崩さないこと。これは日常的にもよくある話だし、こういう感覚が非常に危険なんだなと。

ラスト15分くらいの展開はその逆転によって起こる結末へ一気に進んでいきますが、関係性の変化を栗原さんのセリフが一気に際立たせています。あの夫婦のあの奥さんのせいで、、、ここも面白い話で、栗原さんの位置付けが妻を守るというスタンスを崩していない。でも実はそのために以前も隣が引っ越していることも含めて、壊していることも多いという事実をきちんと向き合いきれていない、だからお金で解決することになっている。それが最後の、特に優香さんへの呪詛になっていたなあと思います。

最後に段田安則さんと優香さんの関係性を浮き彫りにして終わりますが、あそこも伏線として、戸田さんと優香さんの対決というか、ぶつかる場面での優香さんのセリフがいろいろな意味での伏線になっていて面白かった。それまでにも優香さんに対する伏線はいくつか貼っていますが、一気に顕在化すると余計に印象づけられる。

個人的にはあのちょっとイライラした感じの前半があればこその後半の作りなので、すごいなあと。前半での感情の動きが、余計に後半での逆転を意識させることになりました。後半の栗原さんの動きはもしかしたら一回感情を見せる部分でもう少し過剰に爆発させても面白かったかなと思ったりもしますが、全体を通してのトーンを維持するというのも狙いだったのかもしれません。

三谷さんの作品でこういうミステリー仕立てのものは「出口なし」「マトリョーシカ」「おのれナポレオン」とかいくつか見ていますが、今回も非常に楽しく見ることができました。二回目とか見ると、さらに三谷さんの伏線、意識できるかもしれません。