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Electric Sheep

徒然なる日々の記録

「エノケソ一代記」2016.12.17(土)ソワレ


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世田谷パブリックシアター三谷幸喜さんの新作「エノケソ一代記」を見に行きました。

世間様では「真田丸」が最終回ということで評判なんだと思いますが、三谷さんはすでにこの「エノケソ一代記」と「不信」を書かれています。相変わらず精力的です。更に今回の舞台では、東京サンシャインボーイズ以来の役者としての出演もされると言うことで、話題性もなかなか。

今回の作品は主演が市川猿之助さん。襲名前は亀治郎さんですね、ドラマもよく出ているので、ご存知の方も多いと思います。相手役に最近すっかり売れっ子になった吉田羊さん。他にも夢の遊眠社からおなじみの浅野和之さんなどを始めとしたくせのある役者さんが揃った作品です。

あらすじ的には戦前戦後の頃に名を馳せたエノケンこと榎本健一に憧れた少年が、モノマネをしているうちにそのまま自らを「エノケソ」という名前にして劇団を起こして、興行をするようになる。エノケソはエノケンを崇拝し、彼の生き様を追うようにして生きてゆく。そしてそれを支える妻。最後は壊疽で足を切断したエノケンを追うようにして自らも足を切り、そして最後に迎えるエノケソの一生、、、という感じです。

三谷さんなのでコメディ要素は多くありますが、以前の作品「なにわバタフライ」のような芸人の生き様だったり「温水夫妻」「グッドナイト、スリープタイド」のような夫婦の描き方だったりという作風です。

 三谷さん最初エノケンそのものを描くような依頼だったと話していましたが、実際の人物を描くと色々と制約も出てくるので、エノケソという偽物を描くことを考えたと、雑誌のインタビューで答えていました。まずそれが正解というか、自由に描くことができるのと、併せて偽物としての芸の評価だったりという部分も含めて、惹きつけられる二時間です。猿之助さんは実際に歌っていらっしゃいますが、非常にうまい。あの立ち姿というか、振る舞いのカッコよさはさすがだと。

吉田羊さん、しっかりものの奥さんを熱演。芸人の妻らしく、夫を盛りたてたり、浮気相手の処理をしたり、脚の件も一度は怒って立ち去りますが、結果その脚のないエノケソの面倒を最後まで見ることになります。吉田さんは非常にきついイメージが出やすいと思いますが、この舞台では、旦那さんへの献身さが非常によく伝わり、最後のエノケンに会えた時のくだりでの演技は、夫婦だな、、、っていうところをぐっと感じさせる芝居を見せています。

なにわバタフライ」のように芸人の生きざまを見せるわけですが、それがフェイクというか所詮はエノケンをなぞるにすぎないというのが、ひとつポイントかもしれません。見ていると、エノケソのまっすぐなエノケンのへのあこがれに共感してしまいそうになります。でも所詮はまねごとであり、エノケソはあこがれた人の模倣をする意外に生きざまがなかったという虚しさもあります。ただそのことをエノケソは自覚的に生きている。時折、いやエノケンに会ってはいけないとか、恐れ多いとかいうセリフが出てきますが、その自覚があるからこそ、エノケソのやることには物悲しさが少なからず漂う気がします。

最後のエノケンとのくだりはエノケソの最後にふさわしいというか、それこそ「本物の偽物」として生き続けたエノケソの最後らしい終わり方を見せてくれたと思います。あれでよいなと、確かに悲しい終わり方ですが、個人的にはあれが「偽物」らしい終わり方だと思います。

見ていて不思議だったのは浅野さん演じる座付作家、蟇田。結局、この人はただ楽しんでいただけなんだろうなと。偽物で興行をすることも、結果エノケソの脚を切る流れになったことも、その心意気にほだされたと台詞にはありますが、まあ適当なんだろうなと。ある意味、この話の中での悪役というかそういう役回りですが、それを浅野さんが飄々と演じているので、憎みきれないところが面白い。浅野さんらしい存在感満載でした。

山中崇さんは、エノケソをブッキングする各劇場のマネージャー役を何役もこなします。それぞれのキャラがデフォルメされていますが、非常に楽しく演じていました。ああいう使い方、面白いですね。最後に「御兄弟は?」の流れも良かったです。

三谷さんの「古川口ッパ」は笑えました。というかああいう役どころだから、面白いのでしょう。出てきてすぐに正体に気が付きますが、ああいう役だからこそ三谷さんの役者らしくないところが光ったのだと思います。

個人的にはエノケンに会いたいが会わない方がいい、でもいざ関係者に呼ばれたら病床を払ってでも足を向ける、、そういうエノケソの想いがかわいらしさもあり、でもそれが結局はオリジナルにもなれない芸人なんだな、、、という思いが残りながら見ていました。もしかしたらそこまでの意図はないのかもしれませんが、そういう生き方を肯定も否定もせずに見せる三谷さんは、優しい作家さんだと思います。

次の「不審」も非常に楽しみ、以前の「マトリョーシカ」が同じようなテイストでよい作品だったので、期待しています。