Electric Sheep

徒然なる日々の記録

舞台「新・幕末純情伝」at 紀伊國屋ホール 2016.07.16(土)ソワレ


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松井玲奈さん主演のつかこうへい作品「新・幕末純情伝」を見てきました。

つかこうへいさんが亡くなって、今年で七周忌ということもあってか、紀伊國屋ホールでこの作品を見るタイミングになったのは非常に楽しみでした。
天王洲アイルではなく、あえてこの紀伊國屋ホールでの公演を選んだのは正解だったと思います。
2016/07/17までが紀伊國屋ホールで公演です。この後関西での公演もあるので、感想は一応畳んでおきます。

 

作品のベースはつかさんの書いた小説「幕末純情伝」です。映画版は激しい改変があるので、正直あの映画は無かったことにしてもいいのかな位の感じですがw
沖田総司は女だった」という設定を元に、幕末期における大政奉還から明治維新にかけての時代の動きを、沖田総司坂本龍馬の二人の切ない想いを通じて描かれます。
つかさんの芝居の根底には、自分の出自や少年時代の背景みたいな部分は少なからず盛り込まれます。この作品の場合は「河原者」「労咳」「身分」などです。こういった描写を通じて、いろいろな人の持つ「表と裏」を描きます。下世話な話も多いし、しかしそこがつかさんの描きたい「人の業」なんだと思います。今までもそういう作品を見てきました。亡くなってからもつかさんの作品は上演されています。正直、どう改編されるのか、ちょっと不安ではありました。去年末の「熱海殺人事件」のことがあったので。しかし、その心配は杞憂で、つかさんの作風らしい楽しい時間を過ごすことができました。
小説と違うのは、菊一文字を持つ女・沖田総司天皇の姉という設定が加わったことくらいでしょうか。その設定も途中の「龍馬伝」という小説で加えられた気がします。この設定があることで、最後の総司の凛々しさが際立つ事になります。
ストーリー自体は、こんな感じです。
 女・沖田が三条川原に捨てられているところから始まり、その後、天皇の姉という血筋を知ったうえで、勝海舟が妹として引き取り、剣術の腕を磨かせ、幕末の動乱に備える。その後、総司を襲うつもりで来た狂った海舟の父(沖田にとっての義理の父)を切り捨てたことから出奔し、京都へと舞台が変わる。すでに労咳を病んでいた総司はそこで「百姓に労咳は移らない」と嘘をついた新撰組・副長の土方歳三に口説かれ、女になる。そのまま新撰組に入り、隊員のために人を切り続ける。その後、坂本龍馬と知り合い、龍馬は総司に惚れる。総司は最初は助平な龍馬を嫌うが、段々、龍馬の持つ人柄に惹かれていくが、嫉妬に狂った土方、そして大政奉還をめぐる動きに翻弄される新撰組の保身や、勝海舟桂小五郎岩倉具視といった面々の策略に飲み込まれていく、、、、
歴史ものといっても、所詮はつかさんのフィクションの中でいろいろと改編しながら、幕末の動きを描いていき、最後の龍馬の死、総司の最後を哀しく見せていきます。
 まず、主演の松井玲奈さん。非常に良かったと思います。自分が見た公演は、若干声がかすれ気味で、さすがに疲れがあったかも。でも小さい身体にも関わらず、手足を目いっぱい使った演技をしていました。SKEを卒業してすぐの舞台で、実際キスシーンなどが話題になっていましたが、そういう部分はまったく関係なく、鋭い目線や大きな動きをしっかりと見せて、良い沖田だったと思います。殺陣はさすがにちょっと練習がまだ足らないというか、刀を振るとぴたっと止まらない、振った刀の軌道がふらふらになるときがあって、そのあたりはマイナスではありますが、アドリブでのふっとした表情のかわいらしさなども含めて、良いキャスティングだったと思います。
 個人的に評価したいのは、坂本龍馬役の石田明さん。お笑いの世界とはまったく別に、非常に良い坂本龍馬を見せていました。以前、自分がシアターコクーンで見たときは筧利夫さんで、あのときの龍馬もさすがでしたが、今回の石田さん、うまかったですね。下品さとおおらかさを持った龍馬を、特に長台詞ふくめてしっかりと演じていたのが印象的です。お笑いの方だけに機転が利くというのもあるかもしれませんが、アドリブへの対応力はもちろんのこと、演出上スイッチが入る場面での切り替えがさすが。若干、せりふ回しのトーンが一本調子という感じはありましたが、それ以上にお調子者であり、国のために這いずり回る龍馬が演じられていたと思います。
今回は笑いの要素も多く、テニプリ関連の味方さんも、テニスネタをぶち込んできたり、アドリブもそれなりに多く、一番面白かったのは、最前列の観客にアドリブでネタを言わせる場面、あれはさすがです。その前の出演者のアドリブのボケが滑りまくっただけに、余計に笑えました。
個人的には、前回のつか作品の「熱海殺人事件」がいまひとつ(原作設定の改編)だったので、正直不安な部分はありましたが、基本的な設定・流れは変わらず、つかさんのテイストが十分に残った演出で見ることが出来たのがうれしかったです。全体的には少し台詞が聞き取りにくい演者がいたり、松井さんの殺陣がもうひとつみたいな部分もありましたが、幕が開いてからの舞台の演出は、つかさんの世界が十分に伝わるものでした。
身分をはじめとした社会的差別の現実、病気に対する差別、庶民である新撰組隊員の下世話さ、政治家たちの非情さ、土方の沖田に対する小者さ加減などなど、つかさんの舞台だからこそ出てくるものがたくさんあり、その世界をしっかりと見せてくれたことは良かったと思います。こういう部分を見せることで感じ取るものがあります。そしてそういう人の「情念」が見えるからこそ、最後の龍馬と沖田の最後の哀しさが引き立ちます。今回の舞台は、そういった演出をしっかりと見せてくれたことで、その哀しさが十分に伝わった舞台でした。
一回しかチケットを取らなかったのは失敗でしたね、これは二回見ておきたかった、、、